忍者ブログ

鏡を見ながら

屋根が見えるだけ

すでに、嵐はすぎさって、空のあちこちでは、雨雲が切れ始めており、雲の隙間から差し込む日光が水蒸気に反射して、何本もの光の柱を生み出している。
地上では、あたしから見える範囲一面、にごった水が溢れていて、点々と屋根が見えるだけ。あたしの小屋のあたりで地滑りを起こすぐらいの雨だもの、下流では、人間が作った堤防なんて軽々と乗り越え、川が氾濫した。
空気で作った岩に包まれ、流されてきたあたしは、そんな町のひとつの屋根に引っかかって、動けなくなってしまい、あたしは保護していた岩をでるしかなかった。
見渡す限り、水・水・水。雨が降り込め、近くにある屋根たち以外、何も見えない。

もちろん、人間の姿なんてものもない。ここにいるのは、あたしひとり。
多分、普通の人間であれば、こんな状況に置かれれば、寂しく心細く感じるだろうけど、あたしはそんなことを感じることもない。ただ、何もすることがなくて退屈なだけ。
ふああ~~ん
あくびが出た。眠くなってきた。そして、いつの間にか、あたしは眠ってしまっていた。

「もし、お嬢さん? もし?」
誰かが近くで誰かに呼びかけている。
「もし? お嬢さん?」
うるさいな! あたしは、ずっと川に流されっぱなしだったから、眠たいのよ! 近くで騒がないでよ!
「もし?」
誰かがあたしの肩を揺さぶった。
えっ?
眼を開ける。あたしを覗き込んでいた若い男と眼が合った。瞬間、その男、雷にでも打たれたかのように、ビクッと震えた。それから、あたしのことをジッと見つめた。呆然とした様子で。
PR

コメント

プロフィール

HN:
No Name Ninja
性別:
非公開

P R